循環社会推進協議会へのお誘い
製錬部会長あいさつ
理事 兼 製錬(精錬)部会長
柴田 浩幸
東北大学 多元物質研究所
工学博士 教授
・一般社団法人日本鉄鋼協会 東北支部長・代議員
・公益社団法人日本金属学会 代議員
・日本学術振興会製鋼第19委員会 反応プロセス研究会 主査
地球がゆっくりと蓄積してきた太陽のエネルギーを人類はこの100年ほどで爆発的に消費し続けています。地球に存在する物質の総量は変わることがないのですから、地球上の物質のエネルギー状態が変わるのみと考えることができます。物質の状態変化を起こすことのできるエネルギーは根本的には太陽エネルギーしかないのです。人類の活動の密度が低ければ地球の変換効率でゆっくりと人類の要求を満たしてくれるでしょう。しかし、ほとんどの人類は時間的、空間的に超高密度なエネルギーを使用する生活様式を良いものとして選択し、これを持続することを望んでいると思われます。では、このエネルギーをどのようにして賄うのでしょうか。太陽のエネルギーを高効率に貯蔵することが解となりますが、その手法は様々であり開発が続けられています。その貯蔵法の一つとしてマグネシウム合金が考えられます。例えば、植物が光合成により太陽のエネルギーと水と二酸化炭素から炭水化物と空気を生み出します。太陽のエネルギーがエネルギー状態の高い炭水化物として固定されたことになります。しかし、このエネルギー密度は低いので人類の要求には十分には答えられません。では、マグネシウム合金はどうでしょうか。マグネシウム合金からエネルギーを取り出す方法は、環境負荷がほとんどない金属空気電池を用いることができます。このときに、エネルギー状態の低い水酸化マグネシウムが生成し残ります。環境負荷の低い方法で、この水酸化マグネシウムを金属マグネシウムにすることができれば高密度なエネルギー源を再生することができたことになります。すなわち、金属マグネシウムの製錬を環境負荷の低い方法で行うことです。また、国内において完結することが必要であると考えます。
太陽のエネルギーを電気エネルギーに変換する手法の研究開発は多岐にわたり、太陽電池、風力発電、水力発電(雨は太陽のおかげ)等が利用されています。また、発電されたエネルギーの効率的な利用のためには電気を貯蔵することがカギであり、蓄電方法の研究開発は精力的に進められています。貯蔵した電気エネルギーを固定化する方法として、エネルギー状態の低い水からエネルギー状態の高い水素を製造するプロジェクトが推進されております。このような電気エネルギーを固定する方法の一つとして、マグネシウム合金を提案するものです。製錬部会では、太陽光エネルギーを直接あるいは間接的に固定化するために、太陽に源をもつエネルギーをマグネシウム合金に変換する製錬を行うことを目標に掲げ、いくつかの製錬プロセスの提案を行い、その国内における社会実装に向けて活動しています。
具体的には金属空気電池の残渣になる水酸化マグネシウムを酸化マグネシウムに乾燥し、その酸化マグネシウムを還元し、金属マグネシウムを製錬するプロセスが必要です。このプロセスはマグネシウム製錬法として確立されております。ピジョン法と呼ばれるこの製錬法は、酸化マグネシウムから酸素奪う還元剤(Fe-Si合金)と1200℃の高温で反応させてして金属マグネシウムを蒸気として生成したのち冷却し金属マグネシウムを得る方法です。この反応を推進するエネルギーとして環境負荷の小さな再生可能エネルギー(電気エネルギーや太陽エネルギー)の利用を図るものです。還元剤の製造も出来る限り、再生可能エネルギーを用いる必要があります。また、製錬の出発原料として塩化マグネシウムを用い溶融塩電解法によりマグネシウムを製錬する方法もあります。
このようなマグネシウム製錬法と再生可能エネルギーとのベストマッチするプロセスを提案できれば、国内におけるエネルギーの地産地消の循環の輪がつながる可能性があります。
標準的な世帯の一日の消費電力は10 kWhと見積もられています。
極めて単純に見積もれば、1kgのマグネシウム合金により1kwhの電気を発電することが実証されておりますので、10kgのマグネシウム合金を1日で製造できれば循環の輪がつながることになります。まずは第一の目標をここに設定してみます。しかしながら10kgの目標は最初のステップとしては大きいのでまずは1日あたり1kgマグネシウム合金の製造プロセスの確立とエネルギーのマッチングの検証を目指します。
かつて、日本においてもマグネシウムの製錬は行われていましたが、現在はマグネシウムの製錬を行う企業は無くなってしまいました。エネルギーを循環させる輪をつなぐために、日本で失われたマグネシウム製錬を、新しいエネルギーの導入によって構築することが必要ではないかと考えます。皆様のご意見をお願いいたします。
お問い合わせ及び連絡先
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